創造性の重要性
社会の創造性と構想力
日本創造学会フェロー 紺野登
「創造性は人々の頭の中ではなく、人の思考と社会文化的な文脈との相互作用で生じる」
(M.チクセントミハイ:フロー概念の提唱者)
創造性は個人の才能を超える社会システムや文化的基盤に根ざす特質です。日本人は卓越した創造的資質を有し、各時代・地域に傑出した人材を輩出し、農耕文化で培われた協調性によって組織的創造性を発揮してきました。しかし日本社会は時に内向きになり、リスクや不確実性、失敗の過度な忌避という傾向を表します。バブル崩壊以降はまさにその様相を示しました。
「失われた30年」の本質は、社会的創造性、未来を切り拓く「構想力の停滞」だと指摘されます。地政学的変動とデジタル・AI革新がもたらす激動の現代に求められるのは、表層的な発想や空想・妄想的なビジョンではありません。確かな未来への意志、深い歴史的洞察、実践知の統合による構想力です。個人のレベルを超えた組織や社会の創造性の拡張が望まれるのです。
企業であれば、イノベーションのための体制と創造的環境、「場」の形成が急務です。そして個々の自律性を促し、領域横断的な知の交流と創造を促進する知のエコシステム(生態系)が従来の持続性の限界を超える革新的価値創造を促すでしょう。
日本の未来は、創造的社会への意識や制度の改革にかかっています。このような中で、学会という社会セクターには産学官の境界を超えた協創の場という可能性が潜在します。これこそが日本創造学会に託された使命ではないでしょうか。
日本人の独創と創造
日本創造学会フェロー 高橋誠
「独創」と「創造」には、明確な違いがあります。創造は「新しい価値を生み出す過程と結果」であり、これは子どもの遊びから、個人の活動や日常的な工夫、または企業内のイノベーションの範囲にまで及びます。これにより、日本人は様々な分野で新しいアイデアや解決策を生み出す「創造性」を発揮してきました。
一方、「独創性」は創造性の発展形と考えられます。心理学者A. H. マズローの定義に基づけば、一般的な「自己実現の創造性」を超えて「特別才能の創造性」として区分されます。この区分を借りれば「自己実現の創造性」が「創造性」であり、「特別才能の創造性」が「独創性」となります。この独創性は、創造性の基盤の上に築かれ、より深い価値や文化、技術の独自性を生み出します。日本文化に根ざした独自の視点と、技術や芸術における日本人の創意工夫が、この独創性を形成し、世界に影響を与えています。 しかし、日本人はしばしばその独創性を謙虚さから過小評価し、国際的に主張する機会を逸することもありました。21世紀に入り、グローバルな場で自国の独自の価値や技術を発信する重要性が増しています。日本人の独自の視点とアイデアが、国際社会の中で新たな可能性を開き、今後ますます国際社会で輝きを放つことを期待しています。
高橋誠著:「創造力事典」日科技連出版より引用/参考